未知なる本を夢見る
2013-04-04


ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」が大傑作だったことは先日書いた通りです。
この著作の素晴らしさは、学問を「横に広げた」ことにあります。

専門家あるいはプロと呼ばれる人間は一つの学問や知識を深く深く掘り下げて探求していきます。
医学もそう。
外科と内科を同時には修得できませんし、外科の中でも「小児外科」と「脳外科」ではまったく別の世界です。

なぜ両方やらないのかと一般の人は不思議に思うかも知れませんが、「道を究める」というのはそんなに生やさしいものではありません。

そうやって一つの分野を深く追い求めると、ダイアモンドさんのような本を書くことはできません。
だけど本当に書けないのか?

ぼくはかなり変わった経歴の医者です。
それを列挙するとこうなります。

英語論文の業績が日本の小児外科でトップクラスだった。
小児外科として「指導医」の立場まで到達した。
(外科医としての腕が熟成していたということ)
小児肝がんのグループスタディーのまとめ役として、日本全体の統計分析をおこなった。
小児外科学会の理事会のメンバーだった。
外科医でありながら、小児がんの抗がん剤治療を多くのお子さんに施した。
外科医でありながら、新生児の全身管理を多くのお子さんに施した。
重症肺疾患の子どもの治療に「膜型人工肺」を使って治療した。
いまはごく普通の開業医として風邪の治療にあたっている。

何が言いたいかというと、一つの専門を深く学びながらも多分野に知識と技術を広げたということです。
こういう医者は日本でぼく一人でしょう。
ぼくの母校から、今後同じような後輩が出現する可能性も皆無でしょう。

そうすると、何か、知識を横に広げられないだろうか?
横に広げることで、誰にも書けなかった「医学書」を書けないだろうか。

たとえばコッホの4原則を意識している開業医なんて皆無でしょ?
いや、大学の臨床医だってほとんどそんなことは考えていないかもしれない。
人間の白血球がゼロになると、どういう状態になるのか知っている医者は少ないでしょう。
しかし、大学病院に長期入院しているがんの子どもたちは決して風邪を引かないという事実を知っている医者少ないでしょう。

風邪の子どもに抗生剤を使う医者がいる理由を、医者自体がわからないでしょう。
なぜ医者はウイルス感染に対して抗生剤を使うのか?

私たちは、当たり前に「予防接種」を受けます。だからその恩恵を理解していないでしょう。
もしワクチンという予防医学がなかったら、人類は滅びているかもしれません。
そういうことを考える医者も、患者もあまりいないでしょう。

ま、などとまとまりのないことを書きましたが、世界の広がりと時間の流れを俯瞰するような医学書が書けたらいいなと、ちょっと妄想してみました。
[ちょっと一休み]

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