m3.com その3
2021-04-10


もともと子ども好きというわけではなかったのですが、小児がんという病気に興味があって、小児外科に入りました。いざやってみると、子どものいろんな可能性やパワーがあって、子どもってすごいなと思いました。


――これまでは小児医療に関する著書が多いですが、今後、取り上げてみたいテーマはありますか。

 今考えているのは終末期医療です。2020年、ALSの患者さんに対する嘱託殺人容疑で医師が逮捕される事件がありました。あの事件は嘱託殺人なのか、安楽死なのか。人生の、人間の命の最終段階をどういう風に締めくくるかは、これからの時代ますます大事になっていくと考えています。

 2025年になると団塊の世代が後期高齢者になり、日本は超高齢社会から多死社会になるわけです。今、大多数の患者さんは病院で亡くなりますが、もう病床が足りなくなる恐れがあります。そうするといやが上にも自宅で亡くなる人が増えるはずで、どうやって人生をクローズするかというのは、小児医療をやっている僕にとっても、避けて通ることできないテーマなのかなと思っています。

 よく考えてみると僕も大学にいたとき、子どもの死をたくさん看取っています。大人はやがてみんな死にますから、医師が何千人の大人の死を看取るのは、考えてみれば当たり前の話です。だけど僕は子どもが亡くなる瞬間を100回以上看取ってきました。がんの子どもの場合は緩和ケアも随分やりました。

――当事者の方を取材して書いてみたいと考えているのですか。

 取材というとオーバーなんですけど、この間、千葉大学の脳卒中センターのセンター長の先生に話を聞きに行くことができました。小児でも大人でも結局同じですが、例えば脳に重篤な損傷があって、もうこれは回復不可能だというときには、最後の最後まで治療するというよりは、本人の生前の意思や家族の意思を最大限に尊重して、治療を望まれない場合には、治療レベルをゆっくり減らしていって、苦しむ時間が長くなるだけの治療はやらないようにしています。それは小児医療も、脳卒中でも変わらないんだと分かりました。

 今は、本当にどうやって最期をいい形にするかということに、現場の医師はかなりのエネルギーを使っていると思います。

 がんの子どもの末期になると、もう延命にあんまり意味がなくなってきて、いかに痛くないようにして、できれば楽しい時間を少しでも長く過ごすということに注力してきました。そういう人生の最終段階をいい形でクローズする。僕は、答えは決して安楽死みたいなことではないと思っているので、そういうことを深く考えて、本を作れればいいかなと思っています。

戻る
[医療問題]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット